Vol.10
INTERVIEW

素材の力を活かした
陶芸の新しい技法を
つくり出す

~制作活動に取り組む研究者の“無謀”な挑戦

清水 香

教育学部 学校教育教員養成課程(美術教育)准教授

清水香先生の研究テーマは、陶芸の世界で“無謀”と言われるような新しい制作技法の開発です。それは素材となる泥自身の力を活かして作品を形づくること。「私の人生から制作は切り離せない」「つくって書ける研究者になりたい」と語る清水先生は、教育者として公開授業でどんなことを伝えているのでしょうか。

プロフィール

清水 香

清水 香 長野県生まれ。倉敷芸術科学大学芸術学部工芸科卒。滋賀県立信楽窯業技術試験場素地焼成科・釉薬科修了。金沢美術工芸大学大学院修士課程、同大学院博士後期課程修了。博士号(芸術)取得。2010年10月に鹿児島大学教育学部美術専修工芸研究室専任講師に着任。2013年4月より現職。現在も作品を制作しながら、研究・教育活動に取り組んでいる。

泥に感じた「生命力」から研究をスタート

―先生のテーマは「素材からの表現研究」と伺っています。具体的にはどのようなことを研究されているのでしょうか。

泥という素材の力を生かした新しい陶芸の技法をつくりだすことです。
従来の陶芸はつくり手が目指す形があり、材料である泥をその形に合わせていきます。一方で私が研究しているのは、泥の粘りや水分量によってつくり出される形が変化する技法です。硬めの泥を支持体である石膏型に載せ、手でかき混ぜながら泥と人が呼吸を合わせるように形をつくっていきます。

この技法について他県の工業センターに相談したら「無謀だ」と一蹴されてしまいましたが、陶芸の世界ではそれくらい難しいことなんです。
どんな状態の泥が、どのような形をつくり出すのか。泥の性質の分析には科学的な知見も必要なので、鹿児島大学の理系の先生の力も借りながら研究しています。

新しい技法を用いて制作した作品。素材がつくりだした造形を削ることで、自然の形と人為的な形を組み合わせた作品を目指している。

―泥本来のつくり出す形に興味を持ったきっかけはありますか。

ろくろで作品をつくる際、手についた余分な泥を桶の縁でこそぎ落とすんですが、そのときに偶然できた形がめちゃくちゃかっこよくて。「探していた形がここにあった」と思いました。
小さくて、すぐに捨てられてしまう泥の塊。無機物なのに、儚さの中に生命力みたいなものを感じたんです。土で「生(せい)」を表現したいと思い、そこからずっと「生」と「死」の表現を試みています。

―芸術と研究を結びつけることをイメージしにくいのですが、この研究のゴールはどのような状態を指すのでしょうか。

泥そのものの力を活かしてもっといろんな形をつくれるようにしたい、というのはあるのですが、どのような状態がゴールと言えるのかは私にもまだわかりません。
なぜ陶芸に、つまり「泥という素材を使って焼き固めること」にこだわるのかという問いに対する答えが私の中ではっきり出せていないんです。例えば「もっと扱いやすいほかの素材、石膏とかでつくればいいんじゃない?」と聞かれたときに、自分自身が100%納得できるような答えを持っていません。そこはこれからも突き詰めていきたいです。「つくって書ける研究者になりたい」

「つくって書ける研究者になりたい」

―先生は研究者・教育者としての活動だけでなく、制作も続けられています。いつから陶芸の道を志したのですか。

美術教員だった父が絵画、彫刻、陶芸などをしていた影響で、昔から美術の道には進むつもりでした。陶芸を選んだのは、父が家に陶芸の窯を作ることになり「使わないともったいないな」と思っていたタイミングで、備前焼を見たから。渋くて、とてもかっこよくて。備前焼の勉強をするために岡山の大学に進み、次は信楽焼をつくりたくなって滋賀県に行き……。もっと造形力を付けたいと思い、金沢美術工芸大学大学院に進学しました。
金沢美術工芸大学には素材を大切にする先生が多かったので、私も素材への意識が強くなったのかもしれません。

土に触っているときが一番喜びを感じますし、私の人生から制作は切り離せません。ものづくりって本当はあまり言葉で語りたくないんですけど、研究や教育のためにはどうしても言語化が必要です。陶芸の領域で制作と論文を両立している人はあまりいないので、私はつくって書ける研究者になりたいと思っています。

―陶芸とほかの芸術との違いは何だと思いますか。

例えば絵描きや彫刻家は、「自分の精神を表現したい」という方が多いと思うのですが、陶芸家は自分よりも土が主だと捉えている気がします。自分の思いや表現よりも、土を優先する。土の生理に合わないこと、土にとって無茶なことはしたくないんです。人が土に寄り添いながら工程を踏んでいく。やはり土が生きているように感じているからだと思います。

ものづくりを学ぶことが、自身の生活を振り返る契機に

―教員として学生と接していて、感じることはありますか。

学生たちは授業やゼミで、日常で使う物の制作や自分を表現する造形に取り組んでいます。最近、後者の方が得意な学生が多いということに気づきました。まだ自立していない、もしくは自立したてで、好きな器を使うことが癒しの時間をつくるということにピンとこないのかもしれません。それよりも自分の内側にある思いの方が表現しやすいのだと思います。

物の捉え方についても、学年が上がるにつれて変化していくのを感じます。
ほとんどの学生は一人暮らしを始める際に100円ショップで食器を揃えますが、次第に人の手でつくられた物の魅力に気づいていくようです。「こんな物を買いました」「物を選ぶとき、誰が・どのようにつくっているのか気になるようになりました」と報告してくれる学生は多いです。以前は20,000円の櫛を買ったと報告してくれた学生もいました。

鹿児島は、工芸品や造形物を日常的に目にする機会が少ないと感じています。特に県外の作品に触れる場ももっと増えてほしいですね。多様なものに触れることで、若い人たちの文化度が高まっていくことを期待しています。

―公開授業では、社会人も制作に取り組むのでしょうか。

はい。コロナ禍以前は「窯芸(ようげい)」という授業を公開し、制作を通してさまざまな技法を学んでいただきました。現役世代から退職された方まで年代はさまざまで、学生やほかの受講生とのコミュニケーションを楽しみながら制作されています。
学生と社会人では作品の傾向が異なるので、互いにいい刺激になっていたようです。社会人はやはり学生よりも、生活の中でどのように使うかを具体的にイメージできている方が多かったですね。

―先生の授業で学んでほしいことはなんですか。また、公開授業に興味を持つ方へのメッセージをお願いします。

あらゆるものが手軽に手に入る時代ですが、この授業が日ごろの生活を振り返るきっかけになればうれしいです。
自分はどんな物を使って生活しているか。それらはどんな素材でできていて、どのように手に入れているか。今の生活に足りないものはなにか――。家の中に手づくりのものはほとんどないという方もいるでしょう。実際に手や体を使って物をつくってみることで、どのようなことを感じるか考えてみるのもいいと思います。

大学にはさまざまな技術や知識を持った人や、それらを学べる施設があります。まずは公開授業を目的に、ぜひ覗きにきてください。

(インタビュー実施日:2023/2/20)

※撮影のため発声していない状態でマスクを一時的に外しています。
※2023年前期は、清水先生の公開授業の予定はありません

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