Vol.1
INTERVIEW

研究成果は
伝わらなかったら
意味がない

~桜島大根に秘められた鹿児島県民を健康にする物質とは?

加治屋 勝子

講師/農学部 食料生命科学科 食品機能科学コース 生分子機能学研究室

鹿児島で栽培され、世界最大の大根としてギネス認定されている「桜島大根」。実は、血管の状態を改善する物質が大量に含まれていることをご存じでしょうか。それを発見したのが、加治屋勝子先生です。「いくら健康にいい食材を発見しても、たくさんの方に知ってもらわなければ意味がない」と、農家や企業とともに、桜島大根の普及活動にも取り組んでいます。「健康」「予防」についてのさまざまな情報があふれる昨今、身近にいる信頼できる専門家として県内を駆け回り、発信を続ける加治屋先生。研究や活動の原動力を聞きました。

プロフィール

加治屋 勝子

鹿児島県南さつま市出身。西九州大学家政学部食物栄養学科卒。静岡県立大学大学院生活健康科学研究科食品栄養科学専攻博士課程修了。 生活改良普及員、栄養士、管理栄養士、衛生検査技師。全国栄養士養成施設協会会長賞を受賞。山口大学医学部の助手、講師を経て、2013年から鹿児島大学農学部講師。研究室では主に循環器疾患の予防に力を入れており、世界最大の大根としてギネス認定されている「桜島大根」に血管機能を改善する「トリゴネリン」が大量に含まれていることを発見した。 研究に行き詰まった時は、ジャザサイズと呼ばれるダンスエクササイズで汗を流す。

鹿児島県民に多い血管系疾患を予防したい。
思いがけずたどり着いたのが桜島大根だった。

-鹿児島で栽培する桜島大根に、血管機能を改善する物質「トリゴネリン」が含まれていることを発見されたと伺いました。もともと桜島大根をターゲットに研究をされていたのでしょうか?

加治屋 いえ、「血管系疾患の予防に役立つ食材はないか」というのが研究の出発点だったので、その結果が桜島大根になるとは想像もしていませんでした。全国の何百種類という食材をスクリーニング(選別)していたら、ヒットしたのが地元の桜島大根だったんです。まさに灯台下暗しですね。

-たまたま桜島大根にたどり着いたんですね。“ヒット”したときのことを詳しく教えてください。

加治屋 スクリーニングをするときは、自分が今どの食材を扱っているかわからないように、001番、002番…とナンバリングするんです。食材がわかった上で調べると、人間なので気持ちが入ってしまって、例えば好きなものとか、地元のものなどは客観的に判断できないかもしれませんから。そんな中、300番近い番号で、「あれ、入れ間違えちゃった?」と思うくらい、すごく強い反応があったんです。「いよいよ来たかも」と思って、リストをみたら、地元の野菜の桜島大根。「鹿児島にこんなにいいものあったんだ」と、ぶるぶるって震えちゃいましたね。

-この鹿児島大学で先生が探していた機能を持つ食材が桜島大根だったとは、縁を感じますね。先生はもともと栄養士でいらっしゃるとか。血管の病気をターゲットにされていたのはどんな理由があるのでしょうか。

加治屋 鹿児島は、高血圧や糖尿病、脳卒中など血管に関係する疾患になる方が多いんです。私はもともと南さつま市出身で、「ゆくゆくは、地元・鹿児島の人たちの健康の力になりたい」という思いがあり、鹿児島大学着任前に勤めていた山口大学医学部でも、循環器、血管をメインに研究していました。大学病院でしたので、さまざまな患者さんがいらっしゃいましたが、血管の病気は一度なると治すのが大変で…。栄養士として、食材を使って予防はできないかと考え、農学部に分野替えして、鹿児島大学に赴任した経緯があります。
血管は固くなると、血管が切れたり破れたりするトラブルが起きやすくなるので、血管を柔らかくする食材を探そうと思ったのがスタートでした。

研究者である加治屋先生が、
桜島大根の普及にも力を入れる理由とは

-桜島大根の普及にも力を入れているそうですね。

加治屋 私は鹿児島出身なので、桜島大根の存在はもちろん知っていましたが、「大きい大根」という程度で、食べたことはありませんでした。そこで消費量を調べてみたら、県内でも県外でもほとんど消費されてなくて…。一般的に「大きい野菜はおいしくない」というイメージが強いようで、出荷の目的も、県外の温泉に浮かべるため、園児に体験で持たせるため…、などイベント用が多かったんです。
機能性食品を普及させるときに、今まで栽培してきていないものを栽培から始めるのはハードルが高いのですが、桜島大根は、もともと栽培していて知名度もある。あとは機能面を知ってもらうだけなので、比較的普及しやすいはずだと思って、栽培量や消費量を増やすための活動もしています。

-研究者として、普及活動にも取り組む理由は何ですか。

加治屋 私たちの研究って、ある食材が体にいいことがわかって、論文を書いたとしても、それをたくさんの方に知ってもらって実際に食べてもらわないと何の意味もないんです。しかも、知ってもらうだけでも不十分で、皆さんが、年中手に入れやすい状況でなければならない。

桜島大根の収穫期間は、1年の間で12月後半から2月までの約2か月しかないんですが、いくら皆さんが桜島大根の機能を知って、食べるようになったとしても、2か月間血管の状態がよくなるだけならダメですよね。「年中食べられるように加工品をつくらなきゃ」となるんですが、加工品をつくるためには企業さんの協力が必要です。そして、企業としては加工品をつくるなら、コストの関係で桜島大根をまとめて購入することになる。ということは、ある程度生産量も必要になる…。そんなわけで、農家さんにも企業の方々にも協力してもらわないと、桜島大根のトリゴネリンが実際に皆さんの健康に役立つことはできないんです。

-加治屋先生は、ご自身のブログもまめに更新されていますよね。情報発信を重視されているのを感じます。

加治屋 大学の教員って、論文や学会発表などの業績で評価されるので、私も昔は論文を書くことが仕事のゴールだと思っていました。でもある時期から、研究成果を出すだけでなく、一般の方々に知ってもらうのもすごく大事だなと思ったんです。
私は子供を4人産んでいるんですが、3人目の子供を先天性の血管の病気で亡くしています。何回も手術をしてかんばってくれて、もっと長く一緒に過ごせると思っていたのに、自宅でいきなり心臓が止まってしまって。血管の病気って、突然命を落としてしまうんですよ。娘を亡くして、本当に悲しくて…。「同じように悲しい思いをする人を減らしたい」「私に何ができるだろう」と考えたときに、自分の専門性を生かして、病気を予防できる成分や食物を明らかにした上で、そのことを広めていきたいと思ったんです。それ以来、研究成果は社会にちゃんと還元できるように意識しています。

桜島大根もせっかくいい機能があることがわかったので、みなさんに知ってもらえる機会を増やしたいと思い、あちこちで講演をさせていただいたり、小学校で食育活動したりしています。ブログ執筆もその一環です。

最初は、研究成果である「トリゴネリンという成分が、血管の病気を予防します」ということだけを伝えるつもりでいたんです。でも桜島に行ったり、農家さんと話したり、生産現場を見たりしているうちに、私自身が桜島大根についてもっと知りたくなってきました。桜島大根の大きさ、葉っぱの形も知らなかったのに、どうやって種をまくのか、どうやって間引くのかということまで気になってきて、ついにマイ桜島大根も栽培するまでに…。

青首大根は植えるのも収穫するのも機械でできるんですが、桜島大根は今でも手作業のみ。その現場を見ると、「こんなに大変な思いをして出荷しているからには、たくさん食べてほしい」と思うようになってきます。だんだん桜島大根が愛おしくなり、消費者の方にももっと桜島大根のことを伝えたくなって、いまは桜島大根のフェアイベントの開催にも主体的に関わるようになりました。

学生時代は公務員志望。親の反対を押し切って研究に舵を切ったきっかけは

-加治屋先生は、なぜ研究者になろうと思ったんですか?

加治屋 もともとは、栄養士になるために大学に入り、卒業後は県職員として働くつもりでした。でもちょうど公務員試験を受けたころ、お茶をテーマにしていた卒業論文研究が面白くなってきていて。「食品のことをたくさん勉強してきたつもりだったけど、実はよくわかっていないかもしれない。もしかして教科書に書いていないことの方が多いのでは…」と気づいてしまい、研究に気持ちが傾いていきました。

ダメもとで親に大学院進学を相談したら、公務員試験に受かったこともあり大反対。悩んだんですが、それほど強く「やりたい」と思ったことがなかったので、反対を押し切ってそのまま大学院に進学しました。「博士をとるまでは帰れない」と意地になって、死に物狂いで研究に没頭して…。修士と博士までは食品系でしたが、病気の予防のために食品を使いたいと思うようになって、博士号取得後は医学部に移りました。

-先生が研究領域、教育領域で目指していることは何ですか。

加治屋 私の最終的なゴールは、「食は単におなかを満たすだけではなく、選ぶものによって体が健康になる」ということを、多くの方に知っていただきたいということです。でも、私一人が伝えられる人数には限界がありますので、それを学び、自ら発信できる人たちを育てていきたいですね。

栄養学は実生活に取り入れやすい。「公開授業が自分の体について考える機会になれば」

-公開授業もその一つですね。先生の公開授業はどんな方が参加されていますか。

加治屋 受講されているのは、やはり食に興味があるという方が多いです。「年齢を重ねて自分の体のことを考え始めた」という方。「食や栄養の基本を学びたい」という方。看護師をされていて、「患者さんに食について尋ねられたが答えられず、栄養士にサポートを頼んでいるが自分でもフォローできるようになりたい」という方…。

-講義では、どんな話をされるのですか。

加治屋 糖質や脂質などの基礎、体の仕組みや病気の話などのほか、大学の講義らしく、教科書には載っていない、新しい研究の話もしています。
栄養学は生活に直結している学問です。受講を、自分の体について考える機会にしていただければ嬉しいですね。例えば栄養学では、食品を1種類食べるよりも複数食べる方が栄養バランスはよくなることが理論的に証明されています。実生活に活かすとしたら、コンビニやスーパーで食品を買うときに、おにぎりなら何か具が入ったものを、ヨーグルトならナッツや果物が入っているものを選ぶとか、そういうことですね。栄養について勉強すると、例えば1日単位、1週間単位で栄養バランスを見られるようになり、栄養の帳尻が合わせられるようになってきます。

受講生から感想もいただきますが、講義の内容をちゃんとご自身の生活に落とし込んで考えていただいていると感じます。公開授業生は社会経験が多い分、学んだことを生活に取り入れやすいのかもしれません。

-公開授業に関心がある方にメッセージを。

加治屋 鹿児島大学は、公開授業でさまざまなプログラムを提供しています。どれを選ぼうか迷ったときは、いままで学んだことがない、気にしたことがないという分野もおすすめしたいです。異分野に触れることは、自分の可能性を広げます。
私も食品を勉強していた時期と、医学について勉強していた時期がそれぞれありますが、それらが融合して、いまの研究につながっています。まったくばらばらのことだと思って学んでいても、土の中での植物の根っこのように、思いもよらない広がりや、つながりがあるかもしれませんよ。

 

(インタビュー実施日:2021/3/1)
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